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レ​デ​ィ​メ​イ​ド​に​花​束​を

by 猫木文庫

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1.
 工場から暗闇の通路を通って寝床に戻ると、草臥れた身体で壁に寄り掛かって、二人で肩を寄せて座り込んだ。服には焦げた金属の匂いが染み付いていて、それが湿気の酸性の匂いと混ざって不快さを覚えた。吸い込んだ粉塵が僕とレイラに酷い咳をさせる。部屋の隅にあるバケツから水を掬って喉を潤した。燻された金属の流体が喉を流れる感覚がする。レイラはそれが気管に入ったようで、また酷く咽せ返した。  夏は日が長いようで、小高いところにある小さな格子の換気窓から赤色の夕日が差し込んでいる。今日初めて見る太陽だ。 「夕日」  レイラが換気窓をまじまじと見つめている。眼は赤色に染まる。暗闇の生活でただ一つ光る太陽はあまりに眩しく、見惚れてしまうのだ。僕らが唯一知っている世界の色だ。僕らを夕色に染めるただ一つの光だ。その光に、無性に希望を見出していたんだ。神様みたいだった。あの光が僕らをいつか外の世界へ連れ出してくれる、そう思い込んでいたんだ。でも光は軌道に乗って通り過ぎるだけで、僕らはずっと暗闇の中だった。いくら願っていても何も変わらない、そういう無力感で一杯だ。  幼い頃の僕らは「いつか世界を見に行こう」なんて言って目を輝かせていた。でもその目は今じゃ死んだような形相をしている。生活が日々命を蝕んでいる。このままじゃ僕らはここで息絶えてしまう。もう行かないと。あの日二人で思い描いた、遥か遠い幻想へ。  僕らに、レディメイドに花束を。
2.
人紛い 02:28
ねぇ、幸せってなんだろうね 息苦しいもんで、世界は よろめいて 歩いてたんだ 暗い海を彷徨うように 花咲けど どうにもならないことばかりだ もう何も、希望も全部捨ててしまったな 夕焼けの君を想うだけで胸が痛いんだ 生きる意味なんてないよ ただ君がいればいいや ねぇ、優しさってなんだろうね お人好しなんてのは、ここじゃ居ない 人の心ってそんな冷たいものだっけ? おとぎでも優しいやつは居たよ ねぇ、幸せって何だろうね 僕らはきっと幸せなんかじゃない 想像で生きてようよ 現実じゃ屍も同然さ 言葉なんかいらないよ 何も言わなくていいから 花咲けど どうにもならないことばかりだ もう僕らここに居ちゃいけない気がするんだ 夕焼けに魔が刺すように走り出したんだ 思い出も何もないよ どうにでもなればいいさ もうすぐ夜になるから もうさ、逃げよう。
3.
息を切らして走った 夢見たいな幻想で 夏の匂いがしたんだ 青草と花の匂い 深い闇を抜けたら 視界が広く晴れた 雲間に覗いたあの一等星は 無重力に浮かんで 何光年分だろうか 僕らの生命何倍だろうか 消えない痛みと 君の手を握って 行くんだ逃避行 蒼い空 光る月と 君の目映った遠い記憶 それも全部塗り替えられたら あの光で ブルースター 夜の色を知った 深い青に白く霞んでる 傷だらけの飛行船 夢じゃないよ ほんとのことなんだよ 銃声を振り切って 気づかない振りをして 枯渇する肺気量で 僕らはどこまでいけるだろうか 惑星の彼方へ いつか辿り着けるかな 無重力に浮かんで 何光年分だろうか 僕らの生命何倍だろうか 消えない痛みと 君の手を握って 行くんだ逃避行 蒼い空 光る月と 君の目映った遠い記憶 斜陽の赤 咳をしても 僕らはいつだって二人だった 忘れないよ 覚えていよう この夜を越えた朝の先も その光を ブルースター
4.
宵月 04:08
畦道の石ころ連れて どこかまだ遠くへ行こうとしてるだけ 月の灯はどこか儚いね それはそれで綺麗だね 背伸びしても届きはしなくて 遠ざかる気がするんだ 気がするだけ 大きな月を 大きな月を見ていた 歩けば歩くほど見惚れてしまうような月を見ていた 湖を手尺で掬って 透き通るまま呑んで 裸足のまま歩いて行こうね もう何も持たないで まだ遠くへ 果てない世界を漂う僕はどうにも あなたがいないと消えてしまいそうになるんだ あなたのその透明の手を握らせて 今だけはその心で僕を満たしていて あなたのことを あなたのことを想えば こんなに暗く愚かな世界も生きて往けるかな 大きな月を 大きな月を見ていた 歩けば歩くほど見惚れてしまうような月を 夜が明けるまで それまではこのままでいようよ もう少しだけ もう少しだけ見ていよう 今日は 今日は月が綺麗だね
5.
 もうどれほど来ただろうか。肌足を柔らかな植物に包まれながら、緩やかな長い上り坂を上ると、地平線から明かりが灯り始めた。光は丘の木を照らし出し、僕らを照らし出し、足元から風に乗って宙を舞う青い花びらを照らし出した。闇には憶えない幻想だ。呼吸も忘れるほどに、痛みも忘れるほどに、失った時間を取り戻すように、その景色に僕らは見惚れていた。これこそが僕らが探していた、夢に見ていた幻想か。こんなにも綺麗な、まだ誰も想像すらしたことのない景色が他にあるなら、次はどこを目指そうか。知らない何かを探し続ける、終わらない旅の予感がする。  ふと瞬く間に、力の抜けた体を風がゆったりと倒した。柔らかな地に寝そべって、夜空と朝焼けの境界を仰ぐ。夏の冷やかな朝風が吹いて、無数の青い花びらを宙へ運んでいく。君は眠いくらいに薄く目を開けて、それを見ながら「星みたいだね」と呟く。花弁についた水滴が朝日を含んで夜空の星みたいに光っている。僕らは何だか世界の秘密を知ったみたいな気分だった。  太陽が顔を出して風が止む。花弁は宙に留まる。すると、気づかないくらいのスピードでそれらは落ちてくる。ゆっくりと、ゆっくりと、降り頻る雪のように。僕らに一枚、また一枚降り積もっていく。僕は起き上がって、手のひらで花の雨を溜め込んで、君に 「見てレイラ!こんなにたくさん」  君はもう目を閉じて眠っていた。痛みも苦しみも残さずに。  彼女を包み込むそれは、まるで花束のようだ。  幸福を告げる青い花束。
6.
神様がいなくても 僕らは生きてきたんだ 空が晴れたこと それはきっと幸せ 僕が歩かなくても 空は回り続ける 遠くに流れていく 置いてかないでよ 心が寂しかった 泣き空浮かんだ太陽が 涙を拭ったら きっともう大丈夫だから 僕は歩いて行くよ 終わりは容易いこと 命はとても儚くて でもそれは僕も同じで いつかは消えてしまうから 独りの歩き方とか 人らしく生きる術とか 憂いの隠し方とか わからないんだ まだ知りたくないんだよ 神様がいなくても 君とここまで来たんだ 孤独を知らないこと それもきっと幸せ 泣き空浮かんだ太陽が 涙を拭ったら きっともう大丈夫だから 僕は 僕は歩いて行くよ

credits

released May 23, 2023

Scenario & Songwriting: 猫木蒼

Album Art: 眩しい

Reading:楪とーり
Reading BGM:猫木蒼

Vocal:彩花
Guitar:猫木蒼
Piano:久郷晴香
Drum:もちお
Bass:ババキャン

Recording & Mixing & Mastering Engineer
:ババキャン
Recording Assistant Engineer
:寺井彩葵
:足スタンド1号

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猫木文庫 Kyoto, Japan

京都の5人組ロックバンド。アルバムを一冊の文庫本と見做し、それを映画化するように音楽を奏でる。

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